Abstract DJ Night featuring DJ Olive & DJ Peaky |
大谷 能生 |
ターンテーブルを使用する即興演奏家たちのあいだで、ここ数年積極的に探求されてきた手法のひとつに、ターンテーブルのピック・アップをレコード盤以外のオブジェ(シンバル、セロファン、アルミフォイルなどなど)に落とし、それによって得られた音を使って演奏をおこなう、というものがある。これは、音盤に刻まれた過去のサウンドを再生、変形、コラージュし、それによって音楽的な経験を得ようとする試みとはまた異なり、いままさにここで生み出されてゆく音、という次元が演奏のなかに加えられることによって、ターンテーブルによる即興演奏の可能性は更に大きくなったと言えるだろう。過去の音の「再生」と、ピックアップによっていま拾い出されてきた即物的な響きの「演奏」。ターンテーブルによる即興演奏は、こうした重層化された時間の取り扱いを聴き取るところにも、魅力のひとつがあると思う。
10月23日におこなわれたDJ OliveとDJ Peakyの競演は、機材、プレイ・スタイル、その佇まいまで含めて非常に対照的なものであった。ピエール・シェフェールのミュージック・コンクレート作品がBGMとして流される中、コンサートはDJ Peakyのソロからスタート。それぞれ2本のトーン・アームが付いた、2台のハンドメイド・ターンテーブル(色をあらためて塗り直し、それが今回のライブのポイント、とは本人の弁)。BOSSのピッチ・シフターとフェイザー、DIGITECHのデジタル・ディレイが各1台づつ左右のターンテーブルにつながれており、これらのエフェクターは演奏中にターンテーブルと同等もしくはそれ以上の割合で操作される。 音盤に2本のトーン・アームを落とし、同じレコードから音形は異なるが音質・律動の等しいふたつのサウンドを引き出し、エフェクターでその音のバランスを調整して重ねたり、引き剥がしたり、もう一台のターンテーブルのサウンドと混ぜたり。このようなサウンド・コラージュの基本的な手法を使いながら、坂本龍一の《未来派野郎》やトニー・ウィリアムスのドラム・サウンドなど、かなりの大ネタも使うが、その出音はまったく情景や記憶を喚起させることのない、徹底的に非影像的な場所で反復し続けている感触が面白かった。
DJ Oliveのプレイはそれとはまったく逆で、真ん中においたラップトップ・コンピューターによって再生されるサウンドを接着剤的に使いながら、環境音、話し声、ラジオ的なポップ・ミュージックの断片などの録音を2台のターンテーブルで2枚掛けし、見事なミックス、スクラッチ&針落としでスムースに物語を展開させてゆく。きわめて良く構成されたひとつのショウだ。引き延ばされた時間のなかで物音が歪められ、姿を変えてゆくPeakyのプレイと、流麗に過去の時間を反復、ミックス、再生してゆくOliveのそれとはなかなか相性が良く、ふたりのデュオは互いに相手の持ち味を殺さない、ヴァラエティーに富んだものだった。セッションの後半、かくかくしたスクラッチが止まらなくなったPeakyのプレイにOliveが反応出来ず(このふたりの「スクラッチ」概念はおそらく、相当に異なっているように思う)、なし崩しな感じで演奏が終わってしまったところに、逆にこの演奏のネクスト・レヴェルが見えたような気がする。来年の1月に、DJ Peaky、大島輝之、進揚一郎による「経堂即興楽団」のリユニオン・セッションがあるという。現在は相当に異なった音楽を探求している彼等の演奏が楽しみだ。
(2003年10月23日 六本木・Super Deluxe)
(c) 2003 Yosio OOTANI