Answer Vol.2.1 - Optrum / 経堂即興楽団

野々村 禎彦

 進揚一郎(Ds.)は、2003年1月から即興ライヴシリーズAnswerをOff Siteで始めた。彼が現在参加しているユニットには、木下和重(Vn.)とのEKEなど繊細な音色を持つものも多く、Off Siteという会場の選択は理に適っていた。だが、2004年最初の今回は、この会場には向きそうにない2ユニットの顔合わせ。特に伊東篤宏(optron)とのOptrumは、進の叩き出すハードコアのリズムパターンに合わせて、伊東がこの自作楽器の最大音量で閃光と爆音を撒き散らすのが普段のスタイルで、Off Siteよりも高円寺界隈のライヴハウスの方がよほど似合っている。大島輝之(G.)、DJ Peaky (turntable)との「経堂即興楽団」もロックが語法の基本なので、通常の音量ではOff Siteには厳しい。この音量の制約をいかにプラスに転化させるかが、今回の企画のポイントだった。

 まず、現在も隔月程度のペースで活動を続けているOptrumから。昨年11月9日、西荻窪・Bin Sparkでのライヴでは、大野雅彦(G.,Syn.,performance)らのバンド「ママ」、大友良英のG.ソロという大物が対バンだったが、音楽の面白さでは彼らが際立っていた。今回は、音楽的時間の分節はそのままに、音量を絞ったり立ち上がり以外の音を抜いたり、というアプローチ。伊東の楽器の蛍光灯が明滅するインパクトは普段と変わらない。すなわち、普段なら進がスティックでカウントを取り、ふたりが全速力で走り出すところを、今回は進がブラシを空中で振ってカウントを取り、シンバルを一閃するや否やミュートする。伊東はそのまま蛍光灯を点滅させ続けるが、音量はむしろOff Siteでのソロ演奏よりも小さい。

 普段のライヴと同じく会場はできるだけ暗くし、伊東の蛍光灯が唯一の光源という状態が保たれる。規則的な点滅の周期はツマミで変えられるが、ノイズの変化を伴う不規則な明滅はスイッチの急速な操作で作り出すことになる。演奏開始前にビニールテープでがっちり固定したスイッチをシューティングゲームのように連打し、そのシルエットがストロボ写真のように浮かぶ様子も、普段のライヴと変わらない。進のスネアドラムやハイハットシンバルの連打は、指先で撫でたりブラシでそっと擦ったり、という「微小音プレイ」に置き換えられているが、プレイの区切りにカチッと音を立て、それを合図に伊東も演奏を止め、次にカウントが始まるまでの暗闇が会場の緊張を高めていく、という成り行きも普段のままだった。

 この日の演奏は、爆音という表の属性に隠されていた彼らの音楽の本質を浮き彫りにした。蛍光灯のノイズを音源に用いるため、音と光が原理的にシンクロしているのがオプトロンの特徴だが、様式化されたドラム演奏と組み合わせると、この属性はデュオでも保たれることがOptrumの核心だった。この編成ならば爆音に向かう方が自然だが(実際、「テーマは初期衝動」と彼らは謳っている)、そのエネルギーを内に秘めた微小音によるプレイは、彼らの音楽に新たなページを加えた。もっとも、彼ら自身は相当なフラストレーションを演奏中に感じていたと進のウェブ日記にはあるが、この日のような微小音プレイと爆音プレイをひとつのステージの中に織り込めば、リスナーもフラストレーションとそこからの解放の感覚を共有できることになり、両者の落差が一層の緊迫感を生むだろう。今後の活動がますます楽しみになった。

 休憩を挟んで登場した経堂即興楽団は、1995〜99年に活動した後解散しており、今回は進の呼びかけによる1日限りの再結成だった。筆者は活動中に聴く機会はなく、当時とこの日の演奏を比較することはできないが、この日の演奏は、近年の彼らのソロ演奏の静かな部分を拡大して重ね合わせたように聴こえた。すなわち、大島は膝上のエレキギターを口琴でプリペアして金属棒で弾き、ドローンが辛うじて続いたり続かなかったりする弱いエフェクトを掛ける。大島の役割は、この日のアンサンブルではむしろベースに相当していた。進は微小音版Optrumでの演奏よりは奏法と音色のヴァリエーションを広げ、撥の柄とハイハットシンバルの側面を細かく擦り合わせたり、スティックの先でスネアドラムを擦り続けたり(皮と木の摩擦音よりも、振動がスネアに伝わって生じるぼやけたノイズが中心になる)、といったプレイで他楽器の背景に肌理の細かいノイズを敷き詰める。間欠的にバスドラムを鳴らす静寂の演出は、歌舞伎の一場面のようだ。

 なかでも目立っていたのはDJ Peakyだった。本サイトでは、昨年10月23日にDJ Oliveと共演したライヴを大谷氏が取り上げているが、そこでも描写されている通り、彼の基本的なスタイルはレコードを用い、カットアップという印象を与えずに素材を連続的に変形していくというもの。だがこの日のプレイでは、彼はレコードはおろか、アームすら用いなかった。ミニコンポ用のレコードプレイヤーを改造したターンテーブルのゴムシートを除き、その代わりに厚紙を敷いて、回転するターンテーブルを指先でなぞったり、コンタクトマイクで擦ったノイズを増幅する。元が安価なプレイヤーだけに、音量を上げるとモーターのノイズが乗ってくるが、それも演奏に生かす。ターンテーブルの出力はエフェクターを介してアンプに接続されるが、接触ノイズが素材だけに加工して鮮度を落とすことは避け、専ら音量調整に使う。これらのノイズを異物として提示するのではなく滑らかに繋げ、「歌」すら感じさせてしまうあたりに彼の真骨頂を見た。

 この日の演奏が往時の彼らの典型的なスタイルに沿っていたとは考えにくいが(直接的にロックを思わせる要素も皆無だった)、音響的には(視覚的には、DJ Peakyがこの僅かな機材で果たしてどのように演奏するのかに目が行く)微小音版Optrum以上に地味な素材を用いながら、30分近く全く飽きさせなかった。演奏終了後の第一声は、レギュラー活動時にはこんなにお客さんは来なかったのに、というものだったが、各人のその後の活動がそれだけ充実しているということだろう。あるいは、ようやく時代がこのユニットに追いついたのかもしれない。

 Off Siteオープニングとほぼ同時に始まった「Meeting at Off Site」は昨年末で終わり、音楽会場としてのこの場も転機を迎えようとしている。この会場の音量的な制約は、アコースティック楽器を中心とする小音量の音楽を、大音量のカタルシスが求められない場で自然に鳴らすための環境と考えられてきた。だが、この日のライヴや昨年12月12日のAssif Tsahar&中谷達也デュオは、大音量ユニットの音楽の核心を抉り出す役割も、この場は果たせることを教えてくれた。

(2004年1月17日 代々木・Off Site

(c) 2004 Yoshihiko NONOMURA

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