Lawrence English, Jean-Philippe Gross & Utah Kawasaki, Ben Drew |
野々村 禎彦 |
オーストラリアの電子音楽作曲家ローレンス・イングリッシュ、金属オブジェをミキサーに繋いでフィードバックノイズを聴かせるフランスのジャン=フィリップ・グロス、オーストラリア生まれロンドン在住のラップトップ音楽家ベン・ドリュー。Off Siteは、海外の若手音楽家が来日して気軽に顔を出す、ショウケースのような場でもある。今回はグロスの初来日ツアー初日ということで、日本と海外の若手音楽家が音源交換で制作した《from: / to:》(Hibari Musicと海外4レーベルの共同制作)で共演したユタカワサキとのデュオで登場。
4名の機材は各々着席したらすぐ演奏できる状態でセットされており、短い休憩を挟みながらの3セットがスムースに進行した。一番手はイングリッシュ。クイーンズランドの無人村でのフィールドレコーディングを素材にした作曲作品《Ghost Towns》をラップトップで、若干ミキサーで調整しながら聴かせた。自然音を中心に、重ねられる電子音もそこに無理なく溶け込むタイプのもの。アナログテープ時代のフェラーリ作品に似た瞬間もあるが、そのような批評性は感じられないのは、そもそも現地の映像を伴うインスタレーション作品として作られたからだろう。これはこれでよい。パソコン用の小さなスピーカーでもリアルに響くのは、自然音という素材のメリットである。会場の隣家の主が酔って大声を出したり歌ったりしているのも、音楽にさほど違和感なく溶け込んでいたのは可笑しかった。
次のグロスとカワサキのデュオは、カワサキが開演直前までアナログシンセのセッティングを行っていたこともあって、まずカワサキに目が行った。彼は最近、パッチ式シンセのモジュールを箱から出し、基板上の可変抵抗を直接操作する演奏スタイルに移行し、急速に変転するサウンドを獲得したが、この日は一連の演奏動作の中にモジュールの着脱も取り込んだ。荒れ狂っていたノイズが、モジュールを引き抜くとふっと消え、あるいは合成音の音色が着脱で唐突に変化する。このデジタル的な効果も交えた中低音域中心のノイズに対し、グロスが出していたのは中高音域に広がったシャーッという帯域ノイズ。音は各自が座っている側のスピーカーから出ていることもあり、ダイナミックなカワサキのプレイに目も耳も集中していたが、やがてその運動は中高音域へ広がっていく。ふとグロスの方を見ると、その中高音域の動きに合わせて針金や金属板を擦り合せているではないか。彼のサウンドはいつの間にかカワサキ側のスピーカーに侵入し、音だけでは区別がつかないほど一体化して動き回っていたのだ。このアンサンブルを微小音版インキャパシタンツと呼んでも的外れではないだろう。最後はドリューのソロ。音自体は意識から抜け落ち、濃密な時間の記憶だけが残る稀有な体験だった。直前のセットのグロスのようなサウンドが、カワサキのような沈黙で裁断される音楽だったが、ラップトップ音源のサウンドはアナログ回路のようなゆらぎを含まず、極めて没個性的である。だが、その没個性さゆえ、既成の音楽のイメージに回収されることもなく、時間の分節が適切に行われていたという、抽象的な記憶だけが残る。ラップトップ音源の貧しさが周知されて、ようやく興味深い展開が起こり始めた。DSPソフトの性能やマシンの演算速度に音楽が左右されているうちは、新奇な音響や技術に依存した作品が量産される、ジャンルの草創期にすぎない。新しいテクノロジーの華やかさにあえて背を向け、根源的な貧しさを受け入れる姿勢の胎動は、世紀末のバブル的なブームを越えて、ラップトップの使用が成熟期に入りつつあることを示している。
(2004年4月9日 代々木・Off Site)