絶対アンテナ vol.26:天鼓、aen、伊東篤宏トリオ

野々村 禎彦

 「絶対アンテナ」は、Off Siteオープン当初から続いている、オーナー伊東篤宏による企画。伊東のオプトロン演奏はこの企画を通じて知られるようになった。今回のライヴは天鼓(Vo.)のリクエストで急遽決まったようだが、aen (laptop) を加えたトリオにしたのが、音量に制約のある会場を熟知した伊東の好判断だった。また、先日の台湾ツアーから使い始めたという8盤レコード専用プレイヤー(カバーは外し、改造して出力端子を設置)が新たに加わった。

 前半は、8盤プレイヤーとラップトップのデュオで始まった。伊東は直径8センチの回転面に合わせた厚紙に通常のソノシートの音溝部分を切り貼りし、スクラッチノイズが出やすくしたシートを数種類用意し、さらにクリップやキーホルダーをシート上に置いて、針がブロックされる際に生じる不規則なノイズを聴かせる。偶然の出音を演奏に取り込むサウンドアート的な発想。aenはサンプリングした波の音、アナログ回路の暗騒音をシミュレートしたサウンド、ベルンハルト・ギュンターを思わせる静かな発振音などで応える。緊張感に満ちた静寂のやりとりに、天鼓も息音やハミングで加わる。口腔の形や息の通り道の違いによる音色の変化を軸に、ハミングの倍音唱法も聴かせた。伊東がオプトロンに持ち替えると、それまでは合いの手に徹していた天鼓の方向性がコール&レスポンスに変化した。音を出さずに光らせ始めた時から明滅に呼吸を合わせ、音が出始めると息音や喉を絞った小声で逐一追いかける。伊東は天鼓に直接的に反応するわけではなく、ふたりの関係はいわば片想いだが、自動点滅とゆらぎを含む手動点滅の切り替えも沈黙の挿入もソロよりも頻繁なのは、追いすがる天鼓を意識して落ちない程度にフェイントをかけていたのかもしれない。この間aenは、手持ちの音源を入れ替えつつ背景に淡々と流すだけだが、彼の存在がこの音楽にリアリティを与えた。恋人未満の男女が近づいたり離れたりする様子の描写のみでは傍から見ると白々しいだけだが、そこに時代背景が書き込まれると、とたんに歴史に翻弄される個人のメタファーに見えてくるような、そういう役割をaenは担っていた。そのあたりはaenも意識していたようで、ふたりの関係が濃密になってくると時々音を止め、白々しさを白日の下に晒す。すると伊東は蛍光灯を点灯したまま音を出し、視覚的にも白々とした状態を作り出す。このレベルで意志の疎通ができていると、全員で計ったようにフェードアウトするエンディングも可能になった。

後半は、前半の重苦しさとは対照的なセットになった。伊東は8盤プレイヤーのシートを替え、軽快なスクラッチノイズで開始。aenはシンバルレガートのループでリズミックに応え、やがてピッチシフトさせて歪めていく。天鼓もビートに乗って、軽々と発声する。音楽が固まってくると伊東はシートを針音が出やすいものに替えてノイズ成分を増やし、aenは正弦波に近い発振音を左右のスピーカーに振る。aenは徐々に協和音の持続音に移行し、天鼓もノスタルジックなヴォカリーズで合わせる。和んだ雰囲気になってきたところでaenは突然ノイジーな発振音に切り替え、音量もOff Siteの許容限界まで上げた。アンサンブルとしては破調だが、予定調和を避け、乗ってきた天鼓に「この程度の音量までは出してかまわない」というガイドラインを示す役割も果たした。それに応えて天鼓は積極的に生声を出し始め、伊東も前半以上にノイジーなオプトロンのプレイに移行してエフェクターも使うようになった。aenと伊東のノイズに覆われそうになっても、天鼓はマイクを使った演奏で馴染み深い情念的な歌唱は避け、テキストを呟いて言語の意味性という別方向から存在を主張する。これに対し、aenは旋律断片を彼方から漂わせて応える。後半は前半とは対照的に、天鼓とaenの緩やかな反応が音楽の主役になり、伊東が背景を作る場面が多かった。最後は伊東がオプトロンを無音で点灯させたのを合図に、まず天鼓とaenがフェードアウトし、伊東が流し続けていた8盤プレイヤーの針音を落とし、オプトロンを消したところで幕。

 前半が夜なら後半は昼。さまざまな側面で対照的な、しかし統一された色彩を持つ2セットは、Off Siteという場の可能性を踏査し尽すかのような充実したものだった。音楽会場としてのOff Siteのカラーを決めていた秋山徹次中村としまる杉本拓の企画は、軒並み昨年で終わるか他会場に移るかしたが、その後の企画ではむしろ積極的にそのカラーから抜け出そうとしている。世間でのイメージを常に打破しようとする姿勢が、個人であれ集団であれ会場であれ、興味深い活動には欠かせない。なお、6月28日には六本木・Super Deluxeで、天鼓と伊東の大音量デュオが行われるとのこと。新しい出会いを一回限りのイヴェントで終わらせないことも大切だ。

(2004年5月28日 代々木・Off Site

(c) 2004 Yoshihiko NONOMURA
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