指標ゼロ vol.7 : saxophone meeting!

野々村 禎彦

 曽田陽と奥村真司(a.k.a. goboujin)が主催する、ソロ即興を中心に据えたライヴシリーズ「指標ゼロ」も7回目を迎えた。今回は「saxophone meeting!」と題する、6人のアルトサックス奏者を集めた企画。前半は6人のソロを10分ずつ、後半は全員で30分の即興。場内を暗転させ、演奏のタイミングで卓上ライトを点けることで演奏が進む。即興の展開に関わりなく、ストップウォッチで測ってライトをオンオフしていたが、ライトが点いてから吹き始めるタイミングは奏者の自由、ライトが消えても1フレーズが終わる程度は吹き続けてもよい、という緩い縛りだった。6奏者はギャラリーの壁を囲むように置かれた大きめの椅子に思い思いに座る。演奏開始に先立って籤を引いてソロの演奏順を決めたが、全くの偶然で、後方から前方に向けてほぼ時計回りに、大蔵雅彦、徳永将豪、大谷能生、曽田陽、伊藤匠山内桂の順になった。

 大蔵は、ラッパ上でオブジェを操作するようなギミックは一切用いず、息音のみで10分持たせた。息音でフレーズを作るわけでもなく、息の強弱による音量のコントロールと、アンブシェアと楽器の角度による音色のコントロールのみで音楽を作り出す。循環呼吸をさりげなく使い、息継ぎと無関係に必要な箇所のみで音を切るのがポイント。徳永は、透き通ったロングトーンをひたすら聴かせる。ボブ・レイニー(curved S.Sax.)を思わせる音楽性だが、徳永の狙いは徐々に息を強め、オーヴァーブロウで倍音列が変化する瞬間を切り出すことにある。着眼点は素晴らしいが、大蔵のような微妙な制御はまだ難しいようで、10分を持て余し気味だった。

 大谷は、ジャズの常套的な音型をまず提示し、ロマン主義や肉体性と慎重に切り離して変容させてゆく。取っ掛かりの音型はいくらでもあり、10分と言わず続けられそう。回避の姿勢が徹底していなければたちまち凡庸な類型に堕す際どい綱渡り。菊地成孔との一連の著作で踏査したジャズの歴史を、内面化していなければ不可能な作業だ。曽田は、コンタクトマイクで拾った音のリヴァーブをボリュームペダルで操作する。超人的な重音奏法を身に着けなくても、1人で持ち運べるエレクトロニクスで実現できれば十分ではないか。10分聴き続けても違和感はなく、彼のスタンスは正しいが、このセッティングでなければできない音楽も聴いてみたい。

 伊藤は、ライトが点くや否や楽屋裏のトイレに駆け込んだ。便器に貯まった水に長々と放尿する音を扉を開け放して聴かせ、水を流して戻ってくると、今度は配管を伝わる水音が聴こえ始める。この音を背景に、楽器を擦る音や微細な息のノイズを増幅して聴かせる趣向(普段はフィードバックさせるために増幅しているので、一連の行為はアクシデントとは思えない)。「これはこれ」だが、このコンセプトならば実は楽器は何でもよい。この水音は山内の番になっても続いていたが、川の流れと「共演」することもある彼にとってはこの状況は想定範囲内で、ドネダ流の「息の柱」(デュオ録音のリリースが予定されているという)やトレモロの流れに身を委ねているうちに、ふと気がつくと水音は止まっていた。かつての彼はかつての姜泰煥を思わせる、出すと決めた音をマイペースで出し続ける音楽家だったが、現在の彼は音を状況に溶け込ませる達人になった。

 後半は、開始直前に音合わせをして照明を落としたが、ランプが点くとまず音合わせが再現され、これを基層に各自の語法との往復運動が始まった。2人が基層に残っていればそれ以外の音楽家が自由に吹いても音楽の統一感が保たれるのは、全員が楽器を揃えたことの賜物だろう。特に山内が基層を担う時は、彼ひとりでも音楽の一貫性が保たれる。粘り強くトレモロを吹き続け、数人が基層に戻ってきた瞬間にようやくそこを離れる。ソロの飄々とした味わいよりも表現的な瞬間が多かったのは、縁の下を黙々と支え続けるストレスからの開放感も手伝っていたのだろう。思い思いのパッセージに一本筋が通った集団即興は、山内の参加なしには成立しなかった。もちろん、力勝負で声の大きい者が勝ち、というような演奏は決して行わないことが大前提になっていたのは言うまでもない。

 音響的即興のアンサンブルでは、全員がホワイトノイズ的な音を出すことで音色を統一するアプローチが一世を風靡したが、それよりも楽器を統一した方が、音楽の多様性を保ちながら同等の効果が得られる、というコロンブスの卵的な事実をこのライヴは気付かせてくれた。それがどこまで企画意図の内だったのかは定かではないが、音響的即興が音楽活動の出発点だった世代の中からそれを超える発想が現れていることに、しばしば理論的根拠の薄弱さを批判される日本のこの世界の、カルトとは正反対の健全なバランス感覚を筆者は見出している。

(2005年6月26日 千駄ヶ谷・Loop Line

(c) 2005 Yoshihiko NONOMURA

Brief Report - 06/02/26 ミシェル・ドネダ&山内桂デュオコンサート
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