大友良英New Jazz Orchestraミニツアー東京公演より

野々村 禎彦

 ONJOは2006年2月8日から12日にかけて、新宿ピットインで2日、名古屋・得三と京都・同志社大学寒梅館ハーディーホールで各1日のミニツアーを行った。これらの公演と3月のベルリン・MaerzMusikでの2公演(これはフルメンバーではない)をすべて録音し、ライヴアルバムを制作することが目的である。本稿では2月9日、新宿ピットイン夜の部のライヴを概観する。「現在のバンドの好調な状態を記録しておく」ことがツアーの動機だけに、本サイトでもレビューした2005年12月のライヴの問題点をひとつずつ潰していくようなステージだった。本稿はこのレビューを前提に、メンバーや曲目の説明は繰り返さない。まずは、例によってセットリストから:

F1: Out to Lunch (E. Dolphy)
F2: クライマーズ・ハイ・オープニングテーマ (大友) 〜 Lost in the Rain (大友/カヒミ)
F3: Hat & Beard (E. Dolphy)
F4: Gazzelloni (E. Dolphy)

S1: Something Sweet, Something Tender (E. Dolphy)
S2-1: Conduction Piece 1 (大友; 指揮:イトケン、大友)
S2-2: Conduction Piece 2 (大友; 指揮:大友、イトケン)
S2-3: Conduction Piece 3 (大友; 指揮:大友)
S3: 柔らかい月 (高井康生)
S4: Straight up and down (E. Dolphy)

E1: Eureka (J. O'Rourke) 〜 クライマーズ・ハイ・エンディングテーマ (大友)

 筆者が昨年12月のライヴで感じた問題点は、以下のようなものだった。これらの点がどのように解決されたのかが、この日のライヴの焦点である。

 曲目のみならず、曲間にどのような組み合わせでセッションを入れるかも、ほぼ2005年12月の公演を踏襲していたが、「音響セッション」は12月以上に地の曲と一体化している。まず、石川の比重の軽さは、アンサンブルを薄くするという単純な方法で解決した。12月の公演では、管楽器隊は青木タイセイを筆頭に対旋律にバラけ、分厚くポリフォニックなアンサンブルを作り出していたが、この日はテーマと和声付けに留まり、石川のクラスター的な笙の和音が対置された。このような形で石川は常に目立っているので、ことさらに彼にスポットを当てたセッションを組む必要はない。アンサンブルが薄くなると高良の音もマスクされにくくなり、彼女の比重も自然と増した。また、これまでの彼女の役割は主に和声付けだったが、この日は固有のリズムパターンを打ち出す役割も加わり、特に後半の指揮者付即興では大きな役割を果たした。

 カヒミの扱いに関しては、まず2006年1月21日の、新宿・東京厚生年金会館ホールでの新宿ピットイン40周年記念ライヴに触れる必要がある。これまでは、新宿ピットインなら立見ぎっしりでも200人程度、大き目の会場でも高々500人程度の前で演奏してきたONJOだが、この日は2階席まである、埋まれば2000人規模の会場。たとえ十分増幅したとしても、従来のやり方ではカヒミの声は埋もれてしまう。そこで大友はアレンジを変えた。カヒミの朗読や歌がアンサンブルを導くのではなく、カヒミが登場する場面はアンサンブルをさらに薄くした彼女中心のアレンジ、それ以外の場面では従来通りの厚めのアンサンブルと、声を軸にした緩やかなカットアップで貫かれていた。会場は小さくなったが、この日もこのスタイルが踏襲された。さらにこの日は、歌ものも1曲。2005年6月にも演奏された<柔らかい月>だが、ようやくオリジナルを離れた解釈が可能になってきた。

 これらのピンポイント以外も簡単に振り返ると、<Out to Lunch>は、ONJO初期のような長いポーズがいきなり挟まれ、会場の雰囲気を探っているかのようだった。1月の聴衆には「普通のフリージャズ好き」が多かったせいか、ポーズのたびに大きな掛け声が会場のあちこちから飛び、沈黙に静かに耳を傾ける雰囲気ではなかったので、そのあたりをまず確認したかったのだろうか。もちろんこの日の客層は全く違うものだった。その後の前半は12月同様、細かく繋いでゆくアレンジ。音楽的ピークは、全員の出入りが有機的につながった<クライマーズ・ハイ・オープニングテーマ 〜 Lost in the Rain>で早くも訪れた。<Hat & Beard>は、テーマ以外は音響セッションで終始する軽いアレンジ、<Gazzelloni>は芳垣安洋がソロ並みの運動量で叩き続ける、12月の公演を思い出させるアレンジ。

 後半は弦楽主体(ヴァイオリン6名、ヴィオラ1名、チェロ2名)でオーボエも1名加わったアマチュア・アンサンブルとの共演。ただし、メンバーを選ぶ際に技術テストをしていないというだけで、実際はライヴハウス等で定期的に演奏しているメンバーが少なくなく、技術水準はかなり高い。2005年9月の最初の試みを受け、より「教育的」なプログラムが組まれた。すなわち、<Something....>の弦の参加は形だけで、客席にはONJOの音しか聴こえない。まず、仲間内ではない200名を超える聴衆の前でステージに立つ状況に慣らす。次の指揮者付即興では、最初の2曲はONJOと弦の役割を明確に分離し、大友は「音響」側、イトケンは「ポストモダン」側を指揮した。1曲目はイトケンが弦、2曲目は大友が弦を担当。パターンの切り替えのみならず、音量や音色も細かく指示していた。ONJOと弦は独立に弾くことが多いが、合わせの場面もあり、特に1曲目では弦のメンバーに積極的にソロを弾かせていた。指揮が大友ひとりになった3曲目では演奏の自由度が増し、つくづく教育的な進行だ。

 そして、ONJOレパートリーに弦が絡んでゆく「本番」へ。最初は<柔らかい月>。オリジナルに囚われない柔軟な音楽になったのは、弦の異化効果によるところが大きい。カヒミの存在意義を高めるために、歌ものをプログラムに入れるのも理に適っている。<Straight up and down>は、当初はガチガチにアレンジしてようやく形になっていたのだが、いまや即興的な弦と合わせても崩れないくらい、アンサンブルが強靭になったことを端的に示している。アンコールは例によって例のごとく。譜面がない状態で参加する弦を大友は心配していたが、<ユリイカ>を完コピした者もいるほどONJOレパートリーに慣れ親しんでいる奏者が多く、問題は起こらなかった。ただし、いくらなんでもこのアンコールはマンネリ化しており、このツアーが最後だと信じたい。

 以上、少々突き放した調子で駆け足で眺めてきたが、一回性の魅力にあふれた2005年12月のライヴを聴いた耳で、録音と編集を前提にしたツアーの一日を聴いてしまったレポートとしては致し方ない。編集作業の素材としては、八分の力でさまざまな可能性を尽くた音源の方がよいのは確かだ。思えばONJOは、録音のリハーサルとしてのフェスティヴァルから始まった。ライヴ録音を前提にしたツアーでひとつのサイクルが閉じられるのは、このユニットには自然なあり方かもしれない。録音はむしろ出発点で、過酷なヨーロッパツアーを通じて鍛えられたONJQ/ONJEとは、おのずとスタンスが異なる。これは、即興の一回性を標榜しながらも視線は常にレコーディングに向いていた、ビバップ以降の時代のビッグバンドのあり方に対応している。

(2006年2月9日 新宿PIT INN

(c) 2006 Yoshihiko NONOMURA

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