「室内楽コンサート」出張篇@明大前・Kid Ailack Art Hall

野々村 禎彦

 杉本拓大蔵雅彦宇波拓の3人が作曲作品を持ち寄って演奏する「室内楽コンサート」シリーズは、2006年から千駄ヶ谷・Loop-Lineで始まって2009年1月に第20回を迎え、2007年9月までの、比較的初期の音源を集めた最初のCDも3枚組でリリースされた(hibarislubloadfactor, 1-3)。3人の他にゲスト音楽家を招いて演奏はゲスト中心、ゲストも曲を提供する場合があるというフォーマットで長らく開催されてきたが、最近は作曲・演奏とも主催者3人のみで完結させている。

 ただし今回取り上げるのは、彼らと親交があるヴァンデルヴァイザー楽派の作曲家マンフレート・ヴェルダーと、その周辺で活動するスイスのチェリスト、シュテファン・サットを招いた3日間連続コンサートの第1夜として、明大前・Kid Ailack Art Hallで開催された出張篇。当初は、3人の曲の演奏にサットとヴェルダーが加わると告知されていたが、主賓ヴェルダーの顔見せとして、毎日1曲目はヴェルダー作品を全員で演奏することになった。

 1曲目のヴェルダー《20081》は、沈黙の中で各奏者が1音すつ弾いたら終わり、というシンプルな小曲。「何だこれは?」ではなく「ああ、やっぱりね」という調子でパラパラ来る拍手が、コアな客層を物語る。引き続き2曲目は、宇波《d ± 50》(2008)。チェロの持続音で始まり、それが止むと同じ音程で音色の違うラップトップの持続音が微かに鳴っていることに気付かされ、再びチェロが弾き始めるとラップトップは途中で音色を変え、次にチェロが止むと微妙に違う風景が広がっている、というプロセスの繰り返し。聴き進めるにつれて、耳がフォーカスを結ぶ先がズレて行くのが興味深い。

 休憩を挟んで、大蔵の新作《On Friday》(2009)。宇波とサットに杉本が加わるトリオのための作品。サットは相変わらず持続音中心だが、時に調子っ外れのフレーズを弾き、宇波は近年のトレードマークのラップトップ制御モーターで竹筒を叩き、杉本はe-bowでギターを鳴らす。即興ならばシャープな音色を撒き散らすはずのトリオに、ボケた音ばかり出させようとするのが最初の企み。宇波が打ち出すビートのテンポは、チェロが沈黙/持続音/フレーズを弾くのに応じて倍々ゲームで変化し、杉本のギターはチェロと竹楽器のアンサンブルを脱臼させるタイミングで挿入される。普段のシリーズでは、リーダーバンドgnuのための音楽をどことなく思わせるシャープな曲想の作品が多いが、今回は異質な趣向で来たのは特別な機会を意識していたのだろうか。結果的に、このシリーズが無意識に設定していた枠も大きく広がった。

 再び休憩を挟んで、最後は杉本の新作《For Manfred Werder》(2009)。ヴェルダーがステージ前を端から端まで、1時間近くかけてゆっくり横切る行為が曲のフレームを決め、サットのチェロと大蔵のバスクラには、その間に奏すべき持続音と沈黙が交替するチャート(沈黙の時間は任意、持続音の時間指定は厳密)のみが与えられている。杉本と宇波はギターで、持続音程に合わせて疎らなギターの和音を即興的に打ち込む。仕掛けとしてはシンプルだが、音楽は豊かだ。曲を献呈された本人が時間枠を決めるために歩いている、という一種異様な状況が演奏に緊張感を与えたのが大きいだろうが、2種類の持続音が適切に配置され、ギターのタイミングも程よくばらついた、経験に基づいた解釈に依る部分も大きい。

 これまで聴いてきた「室内楽コンサート」シリーズの中でも特に充実した一夜だったが、今回のイヴェントの中ではあくまで前座。サットとヴェルダーの作品が特集される、残る2公演への期待が膨らむ。

(2009年2月13日 明大前・Kid Ailack Art Hall

(c) 2009 Yoshihiko NONOMURA
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