Sachiko M 『I'm here』 展覧会 |
大谷 能生 |
Sachiko M 初のサウンド・インスタレーション作品の展示が、代々木OFF SITEでおこなわれた(2004年2月17日〜4月3日)。会場で配布されている資料に展覧会の概要と、これまでの彼女の活動が簡潔にまとめられてあったので、記録の意味も含めここにその「概要」を全文引き写しておく。
2004年の最初の展示は音楽家 Sachiko M 氏のサウンドインスタレーション "I'm here" となります。Sachiko M のこれまでの数々の音楽活動(詳細は略歴を参照)は主に、音響機材であるサンプラーを演奏する演奏家であり、「音楽的」と言われているメロディや旋律を持たない無機質な音「サインウェイブ」のみを用いた自身の演奏で、音そのもののゆらぎやかすかな変化、その音と対峙している空間の中に潜む環境音など様々な音の色合いを表出させつつ、音と間の関係性が音楽として成立する極限まで到達しています。舞台の音響技師から始った音楽活動のキャリアの中で、極めて個人的な体験や思考から培い導き出されたそのスタイルは全く独自なものであり、音楽家の中でも唯一無二でラディカルな存在感を際だたせています。
今日のサウンドアートという領域では音に対する意識や解釈を再認識する視点を中心に据え、音そのものを捉え直す作業が多く見られますが、今展示では音楽から音そのものを捉え直す仕事を行ってきた Sachiko M による、音が音楽として成立する空間と聴覚そのものを再構築する、という挑戦となります。これまで演奏家として自身の音の現場に居た彼女が不在の場で、その音の体験が始ります。
当日は小雨。オープン直後にギャラリーへ入ると、ちょうど展示のセッティングが終わったところで、壁に取り付けられた小さなスピーカーから断続的にサイン波が聴こえはじめたところだった。断続的、という表現であらわされるものより、もっともっとアクションとアクションの間が長いか。スピーカーからの発音が無い状態が5分以上続く時もある。そのあいだ、耳を澄ませながら、スピーカーに耳を近づけたり、置いてあった折り畳み椅子を勝手に動かして座ったりする訳だけれど、スピーカーからの発音があまりにも繊細で、しかし、それが鳴る/切れる瞬間ははっきりと認識出来るような強さを持っているので、次第に衣連れや床のきしみといった自分の動きに付いてくるノイズが気になりだし、結局、奏者がいないにも関わらず、椅子に座ったまま目を開けたり閉じたり、その間誰も来訪者がいなかったので、60分ほどその空間に一人でじっとしていた。ギャラリーの中央には小さな机があり、その上にSachiko Mがいつも演奏に使っている(と思わせる)サンプラーとオシレーターとミキサーが、電源に接続されていない状態で、アクリル・ケースに収められて置かれてある。(スーパー・クールなこの展示の中で、アクリル・ケースの接着面にだけ、あんまりこういう作業慣れてないんだけど、仕方ないからハンズでアクリル盤買ってきて接着しました、みたいな「手の痕跡」が残っていて、それが少し微笑ましかった。)先日発売されたFADER 9号で畠中実氏がこの展覧会をレポートしており、そこにこの展示の視覚的要素に関しての記述があったので、またまた引用させていただく。
会場に入ると左右の壁面の1m80cmくらいの高さにふたつのスピーカー(ツイーター)が、1mほどの間隔をあけて、対面するのではなくややずれるようにして、計4個設置されている。また、小さな机に乗せられた、サンプラー、オシレーター、ミキサーといった彼女の機材たちが、スペースの中央にアクリル・ケースの中に収まって置かれている。電源コードは繋がれておらず、いかにも展示品のよう。さらに部屋の奥隅には、それらの機材を入れて持ち運ぶのであろう、数々のツアーの痕跡が残された、年季の入ったトランクがひとつ無造作に置かれている。(後略)
畠中氏によると、会場のスピーカーから流される音源は『彼女自身によって作曲された70分ほどの作品の演奏を収めたものと、そのスコアを逆に読んで、つまり最後から演奏したものという2枚のCD-Rが音源となっている』そうだ。その2枚のCD-Rは、別々な場所に離しておかれた(意図的に同期させられていない)プレイヤーによって毎回手動で再生させられるため、会場に響く音のあり方は毎回変わったものになる、という。ここから先はまだ考えの整理がついていないので、箇条書きでこの展示によって考えさせられた事を書いてゆく:
"I'm here"=「わたしはここ」という展覧会のタイトルは、展示を見ると本当にこの言葉しかない、と思わせる素晴らしいものだと思う。「わたし」という、一回性の時間のなかで動くひとつの主体と、「ここ」という不特定の空間がなにか不思議な関係によって結ばれ、なにかあたらしい時間=空間が生まれること。4月23日には『Here, I am』と題して、OFF SITEで演奏がおこなわれるはずなので、展覧会を見逃した人も是非見に行って欲しいと思う。
(代々木・OFF SITE)
(c) 2004 Yosio OOTANI